目次
○遺産分割協議書作成の注意点
遺産相続が起こったら、相続人が集まって遺産分割協議を行います。遺産分割協議が整ったら、その内容を遺産分割協議書にまとめる必要がありますが、遺産分割協議書は、どのようにして作成すれば良いのでしょうか?
基本的な作成方法に加えて、作成の際の注意点や使用する印鑑、ページが複数にまたがる場合の対処方法、今後新たに遺産が見つかったときの対処方法、借金がある場合の考え方などについても押さえておく必要があります。
そこで今回は、遺産分割協議書の作成方法をわかりやすくご説明します。
1.遺産分割協議書とは
遺産相続が起こった場合、遺産分割協議書を作成することが多いですが、遺産分割協議書とはどのような書類なのでしょうか?
遺産分割協議書とは、相続人が集まって遺産分割方法を話し合う遺産分割協議を行った結果を書面にまとめたものです。
遺産分割の内容が記載されており、これにもとづいてさまざまな相続手続をすすめることができます。
たとえば、遺産分割協議書をもって金融機関で預貯金の解約出金をしたり、不動産登記名義を書き換えたりすることができます。
また、遺産分割協議書があると、後に相続人のうちの誰かが「そのような話はしていない」などと言い出して紛争を蒸し返すことを防ぐことができます。
遺産分割協議書を作成するためには、相続人全員が参加している必要があります。1人でも相続人が欠けていたら、どんなに協議を重ねて立派な遺産分割協議書を作成しても無効になるので注意が必要です。
また、相続財産の内容についてもしっかり調査をして、漏れが無いようにしておくことが、後々のトラブルを防ぐためのコツです。
このように、遺産分割協議書は、遺産相続の場面ではとても重要な書類であり、適切に作成する必要があります。
以下では、その基本的な作成方法や注意点などを順番にご説明します。
2.遺産分割協議書の基本的な作成方法
遺産分割協議がととのったら、その内容を遺産分割協議書にまとめる必要がありますが、その際の基本的な作成方法をご説明します。
2-1.用紙や書式は自由
遺産分割協議書を作成する際、特に定まった書式はありません。金融機関ごとに異なる書式などもないので、基本的に書くべき内容が書けていれば、自由な作成方法でかまいません。
用紙のサイズなどについても特に指定はありませんが、A4サイズで作成するのが一般的です。
さらに、手書きである必要もなく、パソコンなどを利用して作成することも可能です。ただし、その場合でも各相続人の署名部分は必ず自署が必要です。押印は、相続人自身が実印をもって行います。
2-2.複数ページでも良い
また、遺産分割協議書は、複数ページにまたがっても問題はありません。遺産の内容が複雑であったり相続人の人数が多かったりする場合などには、数枚以上にわたることの方が多いです。
2-3.遺産と関係のない記載をしても良い
遺産分割協議書を作成する場合、基本的には遺産の内容である財産の分け方を記載しますが、それ以外に「故人の意思を尊重して…」とか「相続人が全員円満に…」などの記載を入れてもかまいません。
2-4.相続財産を確実に特定する
相続財産については、明確に特定する必要があります。預貯金なら「〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇 口座名義人〇〇〇〇」などと書いて特定します。不動産なら、不動産の登記事項証明書の記載を引き写して記載しましょう。
このとき、正確に書かないと、預貯金の払い戻しや不動産登記名義の書き換えなどができなくなってしまうこともあるので、くれぐれも注意が必要です。
2-5.その他
そのほか、「相続人全員で協議した」という内容の文言を最後に入れておきましょう。
遺産分割協議書を作成する際、登記名義の書き換えなどのために提出する必要があるので、提出用と保管用のものをそれぞれ作成しておくと良いでしょう。
3.遺産分割協議書作成の際の注意点
次に、遺産分割協議書を作成する際の注意点をご紹介します。
3-1.複数枚に及ぶ場合
遺産分割協議書の書式に指定はありませんが、ページが複数枚にわたる場合には、ページとページの間に契印が必要です。
3-2.被相続人と相続人の特定
また、被相続人や相続人については、明確にその氏名や本籍、住所地や生年月日、被相続人との関係(続柄)などを記載しておきましょう。相続人の住所や氏名については、住民票や印鑑登録証明書に記載のあるとおりに書き写します。
3-3.相続財産に漏れが無いようにする
相続財産についても漏れが無いように注意が必要です。このとき、財産の漏れがあると、記入のない財産については遺産分割協議が行われていないとみなされてしまい、問題が先送りされてしまいます。遺産分割協議前に、しっかりと財産調査を行いましょう。
3-4.誰がどの財産を相続するかを明示する
さらに、遺産分割の方法として、誰がどの財産を相続するのかを具体的に書く必要があります。この部分がきちんと書けていないと、遺産分割協議書を作成する意味がなくなってしまうので、確実に記載しましょう。
代償分割をする場合には、代償金の金額や支払方法などを明示しなければなりません。
参考:代償分割や代償金について
3-5.実印を使用する
遺産分割協議書では、相続人全員が参加してそれぞれが自署で署名し、実印にて押印する必要があります。法律的には実印である必要はありませんが、実印を使用した方が遺産分割協議書の信用性が高まり、後々のトラブルを防ぐ効果があります。また、不動産登記名義の書き換えを行うためには実印による押印と印鑑登録証明書が必要になるので、当初から実印で遺産分割協議書を作成し、各自の印鑑登録証明書をつけておくことをおすすめします。
遺産分割協議書に印鑑証明書を添付しておくと、不動産の相続登記や預貯金の解約出金、自動車の変更登録などの際に、改めて印鑑証明書を取得しなくても良くなります。
3-6.相続欠格者や相続放棄者は参加しない
相続欠格者や相続放棄者は相続人にならないので、遺産分割協議に参加しませんし、遺産分割協議書に署名押印する必要もありません。
遺産分割協議書の保管分は、各相続人の人数分作成し、各自がその責任において保管することになります。
4.遺産分割協議書の押印方法
次に、遺産分割協議書における押印の方法をご説明します。
4-1.基本的には実印を使用する
遺産分割協議書では、基本的に相続人全員による自署と押印が必要です。
このとき、後々のトラブルを防いだり、登記名義の書き換えなどをスムーズに行ったりするために、実印を使って印鑑登録証明書を添付しましょう。
実印を他の相続人に預けるのは危険なので、控えましょう。必ず自分で管理して、必要に応じて自分で押印することがトラブルを避けるコツです。
もし実印を他の相続人に預けてしまったら、その相続人が勝手に実印を使って遺産分割協議書を作成してしまうこともありますし、他の目的(借金など)に利用されて、勝手に借入をされてしまうおそれもあります。
4-2.ページの間に契印する
遺産分割協議書が複数ページにわたったらページのつなぎ目に契印が必要ですが、このときには、署名押印に利用したものと同じ印鑑を使用します。実印を使う場合には、契印も実印でする必要があると言うことです。契印は、相続人全員がする必要があり、基本的にすべてのページのつなぎ目にする必要があるので、ページが多数に及ぶ場合にはかなり大変な作業になる可能性があります。
そこで、ページ数が多く遺産分割協議書が分厚くなる場合には、製本テープを使って一冊の本の形にすると、製本テープと遺産分割協議書の用紙の境目だけに実印を押せば足りるので便利です。
この場合、表と裏の両面に契印が必要です。
4-3.複数の遺産分割協議書を作成する場合には割印する
さらに、遺産分割協議書を複数部数作成する場合には、割印が必要になります。
割印とは、複数の遺産分割協議書がすべて同じ内容のものであることを証明するための押印です。複数の遺産分割協議書を少しずらして重ね、その境目に押印します。
この割印も、相続人全員が署名押印に利用したのと同じ印鑑をもってする必要があります。実印で押印した場合には、割印も実印にて行います。
4-4.捨印とその問題点
さらに、遺産分割協議書を作成したとき、記載内容に小さな間違いなどがある可能性があります。たとえば、相続人の本籍地の文字が間違っていたり、生年月日が間違っていたりする場合などがよくあります。この場合、基本的にはすべての相続人の訂正印が必要になります。
ところが、相続人が多数で遠方に居住している場合など、すべての相続人からいちいち訂正印をもらうのは大変です。そこで、捨印を押してもらっておくと、それをもって後に訂正ができるので便利です。
捨印は、遺産分割協議書の中で、どこか空いているスペースに印鑑を押すだけでできます。このとき使用する印鑑も署名押印に利用したのと同じ実印です。
捨印があると、遺産分割協議書の間違った部分を訂正し、「◯字削除◯字追加」と書きいれれば訂正ができます。
ただ、捨印をすると、金額などの重要な点まで訂正できてしまうことには注意が必要です。他の相続人をあまり信用出来ない場合などには、安易に捨印をしない方が安心だと言えるでしょう。
行政書士や司法書士、弁護士などの専門家が捨印を要求する場合には、通常問題は起こらないので捨印をしても安心なことが多いです。
どちらにしても、この問題についてはケースごとの対応が必要です。
わからないことがあったら、弁護士などの専門家に相談しましょう。
5.将来新たに遺産が見つかった場合の対応方法
遺産分割協議書を作成する場合、慎重に遺産の内容を調べてすべての遺産内容を記入する必要があります。財産に漏れがあると、その遺産については遺産分割協議ができていないことになってしまいます。ただ、調査をしても調べきれず、いったん遺産分割協議書を作成したあと新たに隠し財産などが発見される可能性があります。
そこで、遺産分割協議書を作成する場合、今後新たに遺産が発見された場合の対処方法も記載しておくとトラブル防止につながります。具体的に誰が取得するのか決まっていたらその人の氏名等を書き入れますし、そのときに改めて協議するならそのように記載しておきましょう。遺産分割協議をする際には、将来新たに遺産が見つかった場合の対処方法についても話し合って取り決めておく必要があります。
6.遺産分割協議書の保管方法
遺産分割協議書は、相続人の人数分作成して各自が保管することになりますが、このとき、保管方法が法律などで決められているわけではありません。そこで、各自が自己責任で保管することになります。
遺産分割協議書は、紛失したからと言って、必ずしも再度作ってもらえるとは限りません。再度作ろうとすると、遺産分割協議書を作ったときと同じ作業が必要になりますので、また相続人全員が集まって実印を用意して署名押印と契印、割印をして、という一連の手続きが必要になり、大変です。多くのケースで、他の相続人の協力が得られないことでしょう。そこで、遺産分割協議書は、紛失することのないよう充分注意して保管することが必要です。
鍵のかかる机や金庫などで、大切に保管しましょう。
7.債務(借金)がある場合の対応方法
遺産分割協議をする際には、遺産の中に借金がある場合の対応方法も問題になります。
借金も相続の対象になるので、遺産の中に借金などの負債があると、相続人は借金も相続することになります。
このとき、借金の相続分を各相続人が遺産分割協議によって定めることができるのかが問題です。
借金の分割については、債権者へ対抗できるのかという問題と、相続人らの内部的な問題によって、考え方が異なります。
まず、債権者との関係では、借金を相続人の意思で分割することはできません。借金は、法定相続分に従って法定相続人に相続されることになります。もしこのとき、相続人らが話し合いで借金の帰属先を決めてしまえるとすると、資力のない相続人に借金を押しつけることもできることになります。そうすると、債権者にしてみれば遺産分割によって債権回収ができなくなってしまい、不利益を受けます。このような問題があるので、債権者との関係では、相続人が遺産分割協議によって借金の帰属先を決めることはできません。
これに対し、相続人の内部的な負担問題であれば、相続人同士で話し合って決めることができます。これは、借金を最終的にどの相続人どのような割合で負担すべきかという問題です。
債権者が請求してきた場合には、各相続人は法定相続分に応じて支払をする必要がありますが、支払をした人は、最終的な負担者である相続人に対し、自分の支払った借金の金額を請求することができます。
以上のような扱いになるので、借金について遺産分割協議をする際には、相続人の内部的な負担割合についてのみ記載することが可能です。
たとえば、遺産分割協議によって、Aという相続人が借金の最終的な負担をすることに決まった場合、遺産分割協議書にその旨書き入れておきます。すると、他の相続人は、債権者からの支払に応じて借金を支払ったら、後にAに対してその支払金の返還を請求することができます。
8.遺産分割協議書作成の際には弁護士に相談しよう
以上のように、遺産分割協議書を作成する際には、いろいろな注意点があります。慎重に対応しないと遺産分割協議書が無効になってしまうこともありますし、せっかく遺産分割協議書を作成しても、相続登記などができずに作り直しになってしまうおそれもあります。
そこで、遺産分割協議書を作成する場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士であれば、有効で紛争防止に役立つ遺産分割協議書の作成方法をアドバイスしてくれますし、遺産分割協議書の作成を依頼することもできます。弁護士に遺産分割協議書を作成してもらったら、上記のような注意点も当然クリアしてくれますし、面倒な手続きも不要になって手間が省けて安心です。
今、遺産分割協議書を作成しようとしていて手続きや作り方について悩んでいる場合、まずは相続問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。
○まとめ
今回は、遺産分割協議書の作成方法や作成の注意点、押印方法や債務の分割方法などについて解説しました。
遺産分割協議書は、相続人同士の遺産分割協議の内容をまとめた書類であり、後々のトラブルを防いだり相続登記などの手続きをしたりするための重要なものです。
遺産分割協議書を作成する場合、書式や記入内容、書き方や署名押印の方法などについて基本的な作成方法や注意点があります。間違った作成方法で作ると、無効になってしまったり、相続手続きができなくなってしまったりするおそれもあります。
また、遺産分割協議書の作成部数や保管方法、借金などの債務がある場合の遺産分割協議方法についてもいろいろと注意が必要です。
このような遺産分割協議書にまつわる疑問がある場合、弁護士に相談すると役立ちます。弁護士に遺産分割協議書の作成を依頼したら、面倒な手続きをすべてしてくれますし、無効になる可能性もなく安心です。
今回の記事を参考にして、今遺産分割協議書のことで悩んでいる場合には、まずは相続問題に強い弁護士に相談に行って、上手に遺産分割協議書を作成しましょう。
○相続・遺産分割に関することならエクレシア法律事務所まで
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