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○子供に相続させたくない場合、「勘当」という法制度はあるのか?
親と子の間で何か事情があって、子供に相続させたくないと考える場合があります。
かつては「勘当(かんどう)」という制度がありましたが、現代の日本では法制度しての勘当というものはありません。
では、法定相続人になるであろう人に、将来相続が始まったときに相続させないということは現在の制度でできるのでしょうか?
ここではこのような場合のための制度について説明することにしましょう。
1.法定相続人に相続させないための方法
現行民法では、相続が開始したときに法定相続人になる予定の人(推定相続人と呼びます。)に相続させたくないときに取り得る方法としては4つのものが考えられます。
遺言、相続欠格、相続廃除、遺留分の放棄がその4つです。以下、それぞれについて説明します。
2.遺言
1つの方法としては、相続させたくない推定相続人の相続分をゼロとする遺言を作っておく方法があります。
ただ、配偶者、子、直系尊属には遺留分があるため、このような遺言書があっても最低限の相続をすることが可能となりますので、遺言を残すことは、これらの相続人に相続をさせない方法としては完全なものではありません。
参考:
3.相続欠格
(1) 相続欠格とは
相続について利益を得るために不法・不正な行為をした人に相続を認めることは妥当ではない場合があります。そのため、民法は一定の行為をした推定相続人は当然に相続人としての資格を失うこととしています(民法891条)。これが相続欠格と呼ばれるものです。
(2) 欠格事由
相続人としての資格を失う欠格事由は次のようなものです。
- ① 被相続人または先順位・同順位の推定相続人を殺し、または殺そうとしたことで刑に処せられた場合
- ② 被相続人が殺害されたことを知りながら告訴・告発しなかった場合
- ③ 詐欺または強迫によって被相続人の遺言の作成・取消・変更を妨げた場合
- ④ 詐欺または強迫によって被相続人に遺言をさせ、または遺言の取消・変更をさせた場合
- ⑤ 被相続人の遺言を偽造・変造・破棄・隠匿した場合
この①から⑤の行為をした推定相続人は相続人の資格を失います。
なお、①は法文上「故意に」(わざと)「死亡するに至らせ」とされていますので、被相続人を過失により死亡させてしまった場合は含まれません。
(3) 代襲相続との関係
相続欠格があっても代襲相続は起こります(民法887条2項)。したがって、相続人の資格を失った人に子がある場合には、その子は代襲して相続人となることになります。相続人の資格を失うのは、あくまで不正な行為をした本人のみということです。この点で、相続放棄とは扱いが異なりますので注意が必要です。
4.相続廃除
(1) 相続廃除とは
相続欠格に当たるほどではないとしても、被相続人が相続させたくないと考える非行が推定相続人にあった場合、被相続人は家庭裁判所にその推定相続人から相続の権利をはく奪するよう申立をすることができます。これが相続廃除です。
家庭裁判所が廃除を認めると、その推定相続人は相続人としての資格を失います。ただし、相続欠格と同様に、代襲相続には影響を与えませんので、廃除された推定相続人に子などがある場合にはその子が代襲して相続することになります。
なお、もともと遺留分を持たない推定相続人(兄弟姉妹)については、相続させたくなければそのような遺言を作っておけばいいので(1に説明した方法です。)、相続廃除の対象にはなりません。
(2) 相続廃除が認められる場合
民法は、相続廃除が認められるための要件として次の2つを挙げています。
- ① 被相続人に対して虐待、重大な侮辱を加えた場合
- ② 著しい非行があった場合
具体的などのような事情があった場合に相続廃除が認められるかは、家庭裁判所の判断によることになりますが、裁判例では、被相続人に対して「火事になって死んでしまえばよい」、「病気で早く死ねばよい」などの言動を繰り返していた場合に重大な侮辱があったものと認めた例や、推定相続人が犯罪で何度も刑務所に入り、被相続人が被害者への謝罪や賠償などをしてきた場合に著しい非行があったと認めた例などがあります。逆に、侮辱や非行が一時的な場合や被相続人にも原因がある場合には廃除を認めなかった例もあります。
(3) 相続廃除の方法
具体的に相続廃除をするにはどのような方法を取ればよいのでしょうか?
2つの方法があります。
①生前廃除
被相続人が家庭裁判所に廃除の請求をするもので、審判の手続によって審理されることになります。
なお、親族間の争いについてはなるべく話し合いによって円満に解決するのが理想であることから、家庭裁判所で扱う事件については原則として調停手続を先に行うこととされていますが(調停前置主義)、この相続廃除の争いについては、事柄の性質上調停ではなく審判手続によることとされています(平成25年の家事事件手続法の施行によってそれ以前と取扱いが変わっていますので、注意して下さい)。
②遺言廃除
被相続人が廃除の遺言をし、被相続人が亡くなって相続が始まった後に遺言執行者が家庭裁判所に廃除の請求をするものです。その後の手続は①と同様です。
(4) 相続廃除の取消し
相続廃除の制度は、特定の推定相続人に相続させたくないという被相続人の意思を認めたものですから、被相続人が推定相続人を許して相続を認めてもよいと思えば、いつでも被相続人はその取消しをすることができます。
その場合には、被相続人は自ら家庭裁判所に廃除の取消しの請求をするか、廃除の取消しの遺言をして遺言執行者が家庭裁判所にその請求をするか、いずれかの方法を取ることになります。
5.遺留分の放棄
民法上、相続放棄という制度があり、相続人は相続開始から一定期間内に相続をしない旨の申出を家庭裁判所にすることができますが、相続開始前(被相続人が亡くなる前)にこの相続放棄をすることはできません。したがって、相続させないための方法として相続放棄を利用することはできません。
この相続放棄とは別に、遺留分の放棄という制度があります。これは、被相続人が亡くなる前に推定相続人が家庭裁判所の許可を得て行うもので、相続放棄と違って相続が開始する前(被相続人が亡くなる前)に行うことができます。
ただ、この遺留分の放棄は推定相続人自身が行う必要がありますので、その推定相続人の同意が得られている場合以外には相続をさせない方法として利用することはできません。また、推定相続人が遺留分の放棄を強いられているなどの事情がある場合には家庭裁判所は推定相続人の保護のために遺留分放棄の許可をしないことにも注意が必要です。
参考:
6.まとめ
相続させないための制度として4つのものを紹介しましたが、確実かつ強制力のある方法は相続欠格、相続廃除の2つです。ただ、相続廃除が認められるかどうかはケースによりますので、弁護士に相談してから方針を決めるのがよいでしょう。
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遺産相続や遺言については、トラブルが発生しやすく、「争族」とまで呼ばれる状態です。
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