昨年から相続税の基礎控除額が大幅に引き下げられたこともあり、相続に関してご相談に来られる方はとても増えてきました。皆さん独自に参考書などを読んで勉強されているようで、ある程度の基礎知識をつけている人も多く驚かされます。
ただ、参考書だけの知識で乗り切れる程、遺産相続の本番は甘くありません。
参考書の通りにいかないのが遺産相続なのです。今回は、一般の方が陥りやすい遺産分割の際の盲点について解説したいと思います。
■遺産分割は単純な割り算では片付かない!?
法定相続分についてはすでにさまざまな書籍やサイトで記載されているため、知っている方も増えていますが、実際のところ相続財産に単にその相続分をあてはめて計算すれば良いという程、遺産分割は簡単ではありません。
一般の方の盲点となりやすいのが「不動産」です。遺産相続は、相続財産に不動産が含まれるか含まれないかで、その難易度が大きく変わってきます。不動産は、その価値が高額であるにも関わらず、物理的に分けることができない資産のため、遺産分割において非常に大きな問題となるのです。
【具体例で考えよう!】
夫が死亡し、妻と子供一人が法定相続人だとします。(ちなみに、法定相続分はそれぞれ1/2となります)
相続財産は実家の土地と建物(価値にしておよそ1億円)と、6,000万円の預金だったとします。仮に預金のみの相続であれば、6,000万円を仲良く3,000万円ずつ分け合って遺産分割協議は終了です。
初心者向けの参考書にはここまでのことしか書いてありません。ただ実務上はそんなに簡単には終わりません。問題は1億円の価値がある実家をどうするかです。
もちろん、妻か子供のどちらかが妥協するのであれば、例えば妻が実家を相続し、子供が現金をもらうという形でも問題ありません(これを現物分割と言います)が、遺産分割においては人の本性が出てきますので、思いのほか譲らないということも往々にしてあります。
そこでこのようなケースを解決するために、次のような遺産の分け方があります。
1:換価分割
不動産が遺産分割においてネックになるのは、物理的に分けられないからです。ですから物理的に分けられるよう「現金化」してしまえば良いのです。仮に実家を売却して1億円の現金にしてしまえば、後は仲良く8,000万円ずつ分け合えば万事解決です。
ただし、この方法にはいくつかの問題点もあります。
第一に、そもそも実家のような生活の基盤となる場所を売却することが妥当ではないということです。換価分割に適しているのは、よそに不動産を所有しているような場合や、投資用の不動産を分割するような場合です。
第二に、1億円の価値の不動産を売却したとして、必ずしも現金1億円になるとは限らないと言うことです。例えば、不景気のさなかに相続が発生してしまった場合は、そこで売却をすれば当然安く買いたたかれることとなります。また、遺産分割協議は相続税の申告期限である相続開始後10ヶ月以内に合意させる必要性が高いため、のんびり時間をかけて売買募集することは難しくなります。よって、いずれにしても市場相場よりも安く買いたたかれる可能性が高いのです。
ですので、遺産分割の際に支障となる恐れのある不動産を所有している場合は、生前に売却して現金化しておくのも一つの手でしょう。
2:代償分割
仮に妻が1億円の実家を相続して、子供が6,000万円の現金を相続すると、どうしても不公平感が出てしまいます。そこでその不公平感を埋めるために、妻が子供に現金を支払うのです。この現金のことを「代償金」と言います。
仮にすべての相続財産が現金だったと仮定すると、1億6,000万円となり、法定相続分で分けるとそれぞれ8,000万円となります。
ですから、子供の相続分が8,000万円となるように妻から子供に2,000万円の代償金を支払うのです。こうすることで相続人間の利益調整を図り、遺産分割協議を解決するのです。
ただし、この代償分割にも一つ注意点があります。
それは、予め代償金を支払えるだけの現金を準備しておくことです。代償金は現金である必要はありませんが、利益調整の意味で行なう関係上現金が望ましいでしょう。
この対策としては、生命保険の死亡保険金を代償金に充てるような生前対策が有効です。
○不動産の価値は誰が決めるの?
ここまでは不動産の遺産分割における注意点について解説してきましたが、不動産にはもう一つ注意する点があります。
それは不動産の「評価額」についてです。
そもそも先ほど「1億円の実家」と表現していましたが、この1億円という評価額をだれがどのように決めるのかでも相続人間で揉めることが多いのです。
「え、それって相続税申告をする際に税理士が評価してくれるんじゃないの?」
と言う人がいますが、実は、不動産の評価については、相続税申告上は一定の基準に則って評価をしなければなりませんが、遺産分割上はこの基準に縛られません。ですから、税理士の評価を基準にしてもいいですし、不動産屋に査定してもらった価格を基準としても問題ありません。
重要なことは、すべての法定相続人が納得する方法で評価することです。
実際のところ、相続税申告上の評価額は実際の市場相場よりも安くなりますので、これをそのままあてはめても現実的ではありません。
例えば代償分割をする場合であれば、不動産を相続する相続人はその不動産の「評価額を低く見積もりたい」という心理が働きますし、もう一方からすれば「評価額を高く見積もりたい」という心理が働きます。そのため、そもそも不動産をいくらとして評価して代償分割をするのかという問題から揉めてしまう場合があるのです。
不動産の相続には弁護士のサポートが必要不可欠!
このように、相続財産に不動産が含まれる場合は非常に高い確率で遺産分割協議が難航し、そして紛争化してしまいます。そのため、各相続人の間に入って交渉、説得してくれる「弁護士」が絶対的に必要なのです。
もしも相続財産に不動産が含まれる場合は、できる限り弁護士に依頼することをおすすめします。
当事務所では、紛争を伴うような不動産相続トラブルに関しても実績があり、地元埼玉県越谷市を中心に春日部・草加・吉川・三郷・川口・八潮・東京都足立区を始めとして、周辺地域からも高い信頼を得ています。まずはお問合せください。
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