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■法定相続人とそれをめぐるさまざまなトラブル
誰かがお亡くなりになられると、その財産は「法定相続人」が相続します。ここまではご存知かと思います。では、ここでいう「法定相続人」とは具体的に誰なのかご存知でしょうか?
法定相続人は、「法で定める」と書きますから、相続する側が自由に決めることはできません。法定相続人については民法にその規定があります。
今回は具体例を基に、法定相続人は誰なのかを解説していきます。
ポイント1:常に法定相続人となる配偶者
本人が結婚している場合は、その配偶者は常に相続人となります。なお、本人が離婚してから死亡した場合は、前妻は法定相続人にはなれません。
ポイント2:配偶者以外の相続人は次の順位によって優先的に決まる。
・第1順位:子供、孫、ひ孫(法定相続分は1/2です)
本人に子供がいる場合は、その子供が法定相続人となります。例えば、妻1人子供1人の場合法定相続人は、妻と子が法定相続人となります。
なお、子供がすでに結婚して孫を産んでいたが、子供は早くに病気ですでに死亡している場合、妻と孫が法定相続人となります。
これを「代襲相続」といいます。子が死亡している場合、孫が、孫も死亡している場合はひ孫が、という形でとどんどん代襲していく形になります。
・第2順位:父母、祖父母、曾祖父母(法定相続分は1/3です)
子がすでに死亡している場合は、本人の父母が法定相続人となります。ただ、この場合も父母が死亡している場合は祖父母に代襲相続される形となります。
・第3順位:兄弟姉妹(法定相続分は1/4です)
子と両親がともに死亡している場合は、本人の兄弟姉妹が法定相続人となります。この場合も、兄弟姉妹が死亡していると甥姪が代襲相続することになりますが、子や父母とは違い代襲できるのは甥姪まででストップします。つまりここが法定相続人となる限界ラインなのです。
サザエさんで考えてみよう。
法定相続人の範囲を考える際には、サザエさんを想像すると非常にわかりやすくなります。サザエさんが被相続人と仮定します。この場合法定相続人は、マスオさん1/2とタラちゃん1/2になります。
仮にタラちゃんがすでに他界しているとすると、今度はマスオさん2/3と第2順位の父母である波平、舟が1/3を二人で分けることになります。
もしも波平と舟がそれぞれ他界している場合はマスオさん3/4と第3順位であるカツオとワカメが1/4を二人で分けることになります。
遺産相続において最も揉めるケースとは
遺産相続において最も揉めるのは、配偶者と兄弟姉妹が法定相続人となるケースです。
この場合、配偶者と兄弟姉妹は全く血のつながりがありません。また、そもそも疎遠であることも多く、死亡をきっかけに夫の残した財産を兄弟姉妹が少しでも多く奪おうとしてくるのです。そのため、遺産分割協議が難航する傾向にあります。
対策としては、事前に遺言書にどの財産を誰に相続させるのかを明確に記すという方法が有効です。また、遺言書を残しただけではその通りに執行できるか不安ですので、遺言書の内容を正確に執行してもらうためにも遺言執行者(遺言書の内容を実行する人)を弁護士に依頼しておくと良いでしょう。
嫁は姑の遺産を相続できない
このように法定相続人の範囲を見ていくと、たとえ実際は親しい間柄だとしても1円も相続できない人が出てきます。その代表例が「嫁と姑」です。仮に姑が死亡した場合、嫁の旦那、つまり姑の息子が生きていれば、姑の財産を息子が相続するため、お嫁さんにとってはたいして不都合はありません。
問題なのは、姑よりも先に旦那さんが死亡しているケースです。この場合、献身的な嫁の場合、旦那の亡き後も姑の面倒をずっと見続けているケースがあります。この際、姑名義の家に嫁も住んでいる状態で姑が死亡すると、姑と一緒に住んでいる家は、姑の配偶者やその子供が相続することになります。
これが大きなトラブルの基となります。
もともと嫁と旦那の兄弟が仲が良いというケースはあまり多くはなく、むしろ疎遠であることの方が多いため、姑の死亡による相続で長年姑の面倒を見てきた嫁が住み慣れた家を追い出される、または旦那の兄弟姉妹に対して自宅の家賃を支払わされるといったあまりにもひどい状況が発生する恐れがあるのです。
そんな馬鹿な、と思うかもしれませんが、法定相続人とはそういうものなのです。
姑が嫁を守る手段はないのか?
このように、法定相続分に則って財産を相続することになると、たとえ嫁がいくら姑を献身的に介護したとしても1円も入ってきません。ただ、姑としても自分を見捨てた子供たちより献身的に介護してくれる嫁の方に情がわく可能性が高いでしょう。
そのような場合は、姑が生前に遺言書で自宅などの財産を嫁に「遺贈」する旨を記載することで、姑の死後に自宅を嫁に譲ることができるのです。
ただ、姑の息子たちには「遺留分」という民法で保護されている相続できる最低限の割合があり、法定相続人が姑の息子一人の場合、1/2が息子の遺留分となり、それを侵害する遺贈は遺留分減殺請求によって取り返される恐れがありますので、遺言書を作成する際には、遺留分に配慮して遺産分割方法を考える必要があります。
そのため、できれば遺言書を作成する際には専門家である弁護士に相談してからにしましょう。
養子縁組する方法もある
また、遺言書を残す以外にももう一つ方法があります。それは養子縁組です。
例えば姑と嫁が養子縁組をすることで、嫁は姑の実子と遺産相続において同じ位置に立つことができるため、嫁も法定相続人となり正々堂々と姑の財産を相続することが可能になります。
なお養子縁組には「普通養子」と「特別養子」の2種類があります。ここでは細かくは触れませんが、普通養子の場合は、嫁の実の両親との血縁関係は維持されますので、姑の養子になったとしても実の両親の法定相続人としての地位はなくなりません。ただ特別養子の場合は、実の両親との血縁関係を完全に断ち切って姑の養子になりますので、実の両親が死亡した場合、あなたは法定相続人にはなれませんので注意が必要です。
前妻の子供は法定相続人になるのか
実はこの問題、これからの日本において将来社会問題になるのではと予想しています。あまり認識されていませんが、夫婦が離婚後に元夫が死亡しても、前妻は赤の他人ですから法定相続人ではありません。これはいいですよね。ただし、前妻が親権を獲得して引き取られた実の子供は、たとえ両親が離婚したとしても元夫の法定相続人であり続けます。
ですから、離婚率が高い今の日本において、子供を産んだあとに離婚することを繰り返すと、いざ相続が発生した時、本妻や本妻との間の子供が、夫の前妻や前々妻との間の実の子供と遺産分割で争う事になるのです。
離婚する際や再婚する際にはこの将来の相続のことまで事前にしっかりと考えて、できれば事前に子供たちに説明しておくなどの配慮が求められることになるでしょう。
隠し子は法定相続人になるのか?
これもよく質問される問題ですが、そもそもどのようにして隠し子が発覚したかがポイントとなります。例えば相続人調査で被相続人の死亡から出生までの戸籍を取得して、そこに認知の記載があればその隠し子は法定相続人としての地位がありますので、被相続人の実の子供たちと同等の権利があることになります。
ちなみに隠し子のことを法律用語で「非嫡出子」といいます。以前は、非嫡出子は実子である嫡出子に対して相続分が半分とされていましたが、2013年に民法が改正され、嫡出子と非嫡出子の間で相続分に差はなくなりました。
ちなみに、死後に隠し子が発覚することは実はそんなに珍しいことではありません。
生前に認知していても家族には内緒にしているケースが多いため、死後に戸籍を取得して隠し子が発覚するというパターンは意外に多いのです。
なお、「私が隠し子です」と自己申告してくる人がいた場合、それだけで法定相続人とはなりません。認知は認知をする父親が役所に認知届を出していなければ、たとえ真実は隠し子だったとしても認知の届出がされていなければ、法定相続人ではありません。
この場合、隠し子は裁判所に対して父親の死後3年以内であれば死後認知請求訴訟を検察官に対してすることができます。この場合、父親はすでに死亡しているため近親者とのDNA鑑定などによって判断されることとなります。
■まとめ
今回は法定相続分と、それに関するよくある質問内容について解説してきました。
法定相続分は民法の規定ですから、無視することはできません。ただ、遺言書が残されている場合はその遺言書の内容が民法の規定よりも優先して適用されることとなります。
けれども、先程もご説明した遺留分を侵害する遺言書の場合は、侵害された側が遺留分減殺請求によって取り戻すことができるため、ただ遺言書があれば問題は解決するというわけではありません。
このように、遺産相続はさまざまな権利や制度が入り組んでおり、事前に適切な対策を考えたり、相続発生後の遺産分割協議をスムーズに進行するためには、経験豊富な弁護士によるサポートが必要不可欠です。あとから後悔しないためにも、遺産相続に関する問題は、早めに弁護士に相談しましょう。
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